東京高等裁判所 昭和56年(ネ)2390号 判決
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【判旨】
三請求原因3の損害について判断する。
1 治療関係費
本訴提起までに支出した治療費・交通費・雑費合計三〇万一六三〇円については、当事者間に争いがない。また、本訴提起後に支出した治療費・交通費については、控訴代理人主張のとおり合計九万七五八○円である事実が、<証拠>により認められる。
ところで、<証拠>によると、控訴人には本件事故による後遺症として脳波に突発波(てんかん波)があり、頭痛とめまいが時々ある事実及び右症状は昭和五三年以来大きな変化なく持続しており、同年から失神を防ぐための抗けいれん剤を毎日服用し、年二回脳波の検査を受けているが、てんかん発作を起したことはない事実が認められる。なお、控訴人法定代理人山口勝子は、控訴人が肩や足の付け根に痛みを訴えると供述しているが、右について医師の診察治療を受けたとも認められないので、後遺症として評価することはできず、また、失神等の発作様の症状があると供述しているが、他に右症状を確認するに足りる証拠はないので、右供述を直ちに採用することができず、更に、忘れ物が多く、成績が下がり、非常に疲れ易くなつたと供述しているが、仮に右供述のとおりの状態であるとしても、本件事故との因果関係を認めるに足りる証拠はない(右山口勝子の供述のみでは不十分である。)。従つて、控訴人は将来も前記同様の症状が持続し同様の治療を継続する可能性が高く、少くとも何らかの治療を必要とすることはほぼ確実であると思われるが、脳波の検査を定期的に受けていることから明らかなように症状が将来変る可能性もあり、治療方法や必要とする交通費が長年月にわたつて現在と同じとは考えられないので、将来支出する見込みの治療費・交通費の各金額を財産的損害として算定することはできないというべきである。そこで、右事実は慰藉料を算定する際考慮することとする。
2 後遺症による逸失利益
控訴人には前項で認定したとおりの後遺症があり、このまま症状が変らなければ将来服することができる労務の種類が制約されることは明らかであり、そのため今後の進学・就職に影響を与えることは確かである。しかし、控訴人の現在の症状が改善される可能性もあること、仮に現在の症状が持続するとしても抗けいれん剤を服用している限り発作が起きることはなく、通常人と同一の日常生活を送ることができると解されること、控訴人は現在中学二年生であつて、後遺症による制限があるとしても、その将来の進路に多くの可能性を秘めており、どのような職業に就き、どの程度の収入を得るかは到底予測できるものではないことを考えると、本件事故により控訴人が失つた将来の就労による得べかりし利益の額を財産的損害として算定することはできないというべきである。控訴人の前記後遺症は自賠法施行令別表(後遺障害等級表)の第九級一〇号に該当すると解され(控訴代理人は同表の第八級に該当すると主張し、<証拠>には右主張に副う記載があるが、採用しない。)、右別表の内容と対応して定められている労働基準局長通牒では第九級の労働能力喪失率を三五パーセントとしているが、本件においては右労働能力喪失率を用いて逸失利益を算定するのは相当でない。そこで、右事実は慰藉料を算定する際考慮することとする。
3 慰藉料
控訴人は、<証拠>によると、昭和五五年三月一九日東京大学医学部附属病院において症状固定と診断された事実が認められ、<証拠>によると、控訴人は本件事故後症状が固定するまでに座間厚生病院に実通院日数三日、大和市立病院に入院日数二日、実通院日数一一日、東京大学医学部附属病院に実通院日数一八日の治療を受け、事故後六日間通学できなかつた事実が認められ、以上の認定を覆すに足りる証拠はない。そこで、既に認定した各事実を総合すると、控訴人が本件事故により負つた傷害に対する症状固定までの慰藉料は五〇万円を相当とする。
控訴人の後遺症に対する慰藉料は、前述の三の1の後段の事実及び三の2の事実を考慮し、その他既に認定した各事実を総合すると、一〇〇〇万円を相当とする。
(倉田卓次 加茂紀久男 大島崇志)